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最高裁判所第二小法廷 昭和23年(れ)3号 判決

主文

本件上告を棄却する。

理由

辯護人井本臺吉の上告趣意書第一點は「原判決は理由第一に「……逃れようとしたが更に追跡して來た倉敷警察署巡査渡辺林二郎(當三十四年)に同市元町露地内に追い込まれたので又も逮捕を免れる爲前示匕首で同巡査の右大腿部を突き刺し……」と記載しながら法律の適條では刑法第二百三十五條第二百三十八條第二百四十條第五十五條しか適用してゐない。被告人の所爲は明かに渡辺巡査の公務執行妨害行爲で他の被害者は何等職業の表示をしないに不拘同巡査のみに付ては表示が特にしてあるのである。それにも不拘刑法第九十五條を適用しないのは判決の理由不備であるか刑法第九十五條を適用せざる違法が存する。刑法第九十五條を適用しても結局重い強盜傷人の規定の適用を受けるから同じだと言ふ議論は理論的ではない。要之原判決は倉敷警察署巡査の逮捕を免るる爲云々と摘示して置きながら刑法第九十五條の適用をしないのであるから明かに理由不備であるか適用すべき法律を適用しない違法がある。」というにある。

原判決は、被告人が、判示窃盜をした際に、倉敷警察署巡査渡辺林二郎の逮捕を免れるため、匕首で同巡査の右大腿部を突き刺し、同巡査に傷を與えた事実を確定しながら、これに對し、刑法準強盜傷人罪の規定だけを適用し、公務執行妨害罪に關する刑法第九十五條の規定を適用しなかったことは、所論のとおりであって、これは確定したる事実に對して、刑法の正條を適用せざる違法というべきである。しかしながら、原判決の確定したところによれば、本件被告人の準強盜傷人の所爲と、公務執行妨害の所爲とは、刑法第五十四條第一項前段にいわゆる「一個ノ行爲ニシテ數個の罪名ニ觸レ」る場合にあたるのであるから、同條および同法第十條の規定に從って重き準強盜傷人の罪の刑によって處斷されるべきである。しかるに、原判決は、刑法第九十五條の適用はこれを逸したけれども、やはり準強盜傷人罪の刑によって、被告人を處斷したことは、原判文上明らかであって、結局、被告人に對する量刑の基準となるべき法條の適用については、誤りはないのである。從って、所論の違法は畢竟、判決に影響を及ぼさないこと明白な場合というべきで、原判決を破毀すべき瑕疵とはならないのである。論旨は理由がない。(其の他の上告論旨及び判決理由は省略する。)

以上の次第であるから刑事訴訟法第四百四十六條に從って主文の通り判決する。

此の判決は裁判官全員の一致した意見によるものである。

(裁判長裁判官 塚崎直義 裁判官 霜山精一 裁判官 栗山茂 裁判官 小谷勝重 裁判官 藤田八郎)

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